ドルビー日本支社インタビュー
ゲームに迫力と臨場感を与える立体音響テクノロジー
ゲーム開発におけるドルビーとミドルウェアの役割に迫る
プラットフォーム
導入製品
司会: 日本と海外のあいだで、サラウンドに対する意識に違いはありますか?
糸川: 特にアメリカでは、ゲームデベロッパーもユーザ自身も、比較的サラウンド音響に親しみがあり十分な理解があります。日本のゲームユーザーに関して言えば、普及しつつありながらもやはりステレオ再生でプレイしている方が多いというのが現状だと思います。
押見: 日本とアメリカでのサラウンドに対する認知度の違いは大きいですよね。
糸川: そうですね。アメリカのドルビー社は、ゲームコンソールとサラウンド音響機器との接続方法についてまで、問い合わせが寄せられるほどですから(笑)。日本国内でのゲームユーザに対する普及・促進は、これからも皆さんが直に体験できる機会をなるべく多く設けるよう努め、継続していかなければならないという感じです。
押見: まぁ、住環境の違いも無視できないですしね。やっぱり、アメリカの部屋は広いですから(笑)。
糸川: そうですね、その通りです(笑)。
ジョン: とはいえ、非常にコンパクトな5.1chシステムも安価で発売され始めていますし、2つのスピーカーだけでサラウンドを楽しめるドルビーバーチャルスピーカーや、ステレオヘッドフォンでサラウンド音響を聴くことの出来るドルビーヘッドフォンの技術も開発されましたから、いよいよ日本でも本格的な普及が始まっていくと思います。
押見: はやく日本でも普及して欲しいですね。最近、海外のゲーム開発者と話をする機会が多いのですが、ドルビー対応については「対応してあたりまえ!」って雰囲気が伝わってきます。どのデベロッパーさんと話をしていても、ドルビー対応は「するか/しないか」ではなく「するのは大前提で、どうやって実現するか?」というところから打ち合わせがスタートするんですよ。その点は、日本とは大きく違うなと感じました。
糸川: ユーザへのドルビー環境の浸透と同時に、デベロッパーへの浸透も進めていく必要があると思います。
押見: そうですね。以前「SCEA DevCon」という開発者向けカンファレンスで、御社のJack Buser氏が「アメリカではPS2ユーザの30%は5.1ch環境を持っている。」と話していました。これって、ものすごい普及率ですよね。そうなってくると、たとえ日本のデベロッパーであっても、海外市場を意識したゲームづくりをしていくなら、どうしてもドルビー対応は必須になってくると思うんですよね。
糸川: 実際、ドルビーの本社から「アメリカでの販売が予想される日本のタイトルは、ドルビー対応するよう交渉に努めること!」という指令が来ています。最近は日本国内のゲーム市場もなかなか厳しいため、複数国市場を狙った国内タイトルも増えてきているので、そういったタイトルにはドルビーへの対応をお勧めしています。
押見: それに、国内市場に絞ったタイトルだからといって「ドルビー対応しなくていい」とはならないですよね。ゲームの臨場感が高まるのはプレイヤーにとっても嬉しいことですし、クリエイターにとっても表現の幅がそれだけ広がりますからね。
糸川: 最近流行っているホラーを題材にしたゲームも、サラウンドを上手く使っていますよね。ああいうジャンルでのサラウンドの貢献度は非常に高いと思います。
御子柴: 背後から何かが迫ってくる音がする…とか、もう怖いものが苦手な私には耐えられません(笑)。ある意味で、映画をも超えた恐怖ですよね。映画の場合、どうしても撮影しているカメラが客の視点になってしまいますが、ゲームの場合はプレイヤーの主観視点になることがほとんどですから。だから、後ろから音が聴こえてもまったく不自然さがないのだと思います。映画だと、観客はスクリーンを見ているわけで、後ろから音が聴こえると、どうしても多少の違和感があると思います。もはや映画の世界ではサラウンドが常識になっていますが、どれも似たようなアプローチで作られている感じがするんですよね。
ジョン: 映画では非常に昔からサラウンドが取り入れられてきているので、確かに若干コンサバティヴ(保守的)になっているところがあるかもしれません。ただ、映画とゲームはそもそも異なるメディアですから、それぞれ違った方法論が成り立つはずです。
ゲームというのはインタラクティブなものですし、コンスタントに迫力のあるシーンが継続しますから、それに合ったサラウンドというものが存在する。一方映画は、限られた時間の中で静寂なシーンやアクションシーンが構成され、非常にメリハリがありますから、そういう目的に応じたアプローチがあるのです。
御子柴: なるほど。
ジョン: とはいえ、個人的には、ゲームのサラウンドのほうがダイナミックでインタラクティブで面白いなぁ、とは感じています(笑)。
糸川: ゲームでサラウンドを使おうとしている人は、結構ラディカル(急進的)な方が多いですから、それだけ新しい表現手法が出てきやすいのかもしれません。映画では、予定調和というか不文律のようなものが既に編み出されていますからね。
押見: 成熟した分野と、新しい分野との違いですね。ぜひゲーム開発者の方々には、ゲームならではのサラウンド表現を模索していって欲しいですね。
糸川: 株式会社ガストの土屋暁さんのように、サラウンド対応に非常に前向きでアグレッシブなクリエイターの方って、結構たくさんいらっしゃるんですよ。そういったサラウンドファンであるクリエイターの皆さんの力で、ドルビー対応タイトルが増えていくという傾向も非常に強いです。実際、ガストのゲームソフト、「アトリエ」シリーズは初期の段階からドルビー対応を実現して頂いていました。
PS2ソフト「リリーのアトリエ」
(C) GUST CO.,LTD.
押見: 市場性ももちろん大事ですが、まずは、作り手がサラウンドに興味を持ちクリエイティビティが刺激されることが、大切なことですね。
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