「携帯ゲーム機」の枠を超えたテイルズ—
『テイルズ オブ イノセンス』開発スタッフインタビュー
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救声主
テイルズの話に入る前に、アルファ・システムの生い立ちを聞かせてください。
佐々木: 1988年に会社を設立しました。以来、プロデューサーという形でほとんどのタイトルに関わってきましたが、元はプログラマーで、PCエンジンの頃からPSくらいまでかなりプログラムの仕事もしていました。
PSで記憶に残っているのは、ムービーデータが、1時間プラス、音楽ストリーミングデータが8時間、更にレンダリングされたインターレースのフルグラフィックが1500枚、みたいなゲームがあって、とてもCDに入りきらないような内容をサンプリングレートを変えたりして、ねじ伏せて収録する、みたいな事をやってました。プログラマーとして最後に担当したのはこれもPSの『幻世虚構・精霊機導弾』というガンシューティングなんですが、2人のプログラマで書いていたのが、たまたまメインプログラマーが2人とも辞めちゃって、それを何とか解析しながら完成させたということがありました。
———なるほど。ではテイルズとの出会いというのは?
佐々木: 元々テイルズシリーズというのは日本テレネットさんが作っていました。アルファ・システムはPCエンジンの頃からテレネットさんと一緒に仕事をしていて、ある時に人が足りないということで、そこからグラフィックだけ手伝ってくれないか? という話をもらったりして関係が始まりました。ある時に「こういうタイプのゲームを作りたいけど、忙しくて・・・」という話をいただいたのが『なりきりダンジョン2』だったという記憶があります。もう結構長い付き合いになりますね。
大舘: 『なりきりダンジョン2』『3』、『テイルズ オブ エターニア』でグラフィックの一部をアルファ・システムさんにお願いして、PSPの『ディスティニー2』の移植、『レディアントマイソロジー』、そして今回の『イノセンス』で5作目でしょうか。
———アルファ・システムさんとしては、ニンテンドーDSを手がけられたのは今回が初めてですよね。
櫻井: そうですね。
———では、基礎的な部分から実験していったということになりますね。
深澤: そうですね。どこまで性能を引き出せるか、という実験をしていきました。
佐々木: DSだからといってハード的に他とそう違うわけではありません。ただ、どこまで性能が出るのか?という点は実際に動かしてみないと分からないところです。ポリゴンの出方もハードによって大分違っています。PSPなどでは割と気軽に描いても奇麗に見えますが、DSは逆に一生懸命やってもなかなかそうはいきません。その辺りでどこまで出来るかという部分は苦労したみたいですね。
———ではバンダイナムコさんの側として今回アルファ・システムさんに任せたというのは?
大舘: アルファ・システムさんが技術的に安心できる開発会社というのは随分前から分かっていて、僕が担当した『レディアントマイソロジー』が先行して動いていました。その頃にちょうど僕の方でもう一本RPGを手がけることになり、アルファさんにお願いしたらリソース的には何とかなりそうということで、『イノセンス』の企画がスタートしました。ですから、もともと『レディアントマイソロジー』があって、それに平行する形で『イノセンス』もお願いします、という形でした。
———『イノセンス』プロジェクトの始まりはいつ頃ですか?
大舘: 最初に打診をしたのが2006年の3月か4月ごろで、正式にお願いすることになったのは翌5月です。そこから企画を練ったり、深澤さんの方でDSの基本的なライブラリを作ったりしてました。沢山スタッフを動員してさあ作るぞ、というのは2006年の年末か2007年の頭からですね。
———テイルズシリーズの中で今作の位置づけというのはどういうところにあるんでしょうか。マザーシップタイトルとおっしゃっていますが。
大舘: アルファ・システムさんにお願いしていた『レディアントマイソロジー』というのは弊社で言っているところのエスコートタイトルという位置づけです。
テイルズというシリーズはこれまで沢山のタイトルが出ていて、それぞれにファンの方がいるわけです。「テイルズオブザワールド」という名前が付いた場合、そういった作品のファンの方に向けて、そのゲームを忘れないでもう一度世界観を楽しんで欲しい、そういう役割を持っているタイトルです。
大舘: それとは別にもう一本はちゃんと物語を立ててやりましょうというのが今作です。始まった当初はマザーシップやエスコートという区別がちゃんとあったわけじゃなかったので本編かどうかという意味では微妙でしたが、狙いとしては据え置き機系のテイルズのメインストリームと、もう一つ携帯ゲーム機系のメインストリームという2つの大きな流れを作りたい、ということでした。『テンペスト』もその文脈で作られた作品です。ですから『イノセンス』もその次の携帯ゲーム機系のテイルズというポジションでスタートしました。
———『イノセンス』を作るに当たってポイントとなったのはどういう部分でしょうか?
大舘: 一番大きいのは、携帯ゲーム機向けにコンパクトにしたテイルズという単純な割り切り方だとユーザーさんの満足は得られないということです。『テンペスト』というのはコンパクトテイルズというコンセプトだったのですが、ユーザーさんが望んでいるのはコンパクトなテイルズというより、テイルズの記号性を全て含んだものなんじゃないか、ということです。『イノセンス』も当初はコンパクトテイルズだったのですが、途中で方針転換して、全て正面から、表現できる限界にチャレンジしようという決断をしました。
———音楽やボイスには相当注力されたということですが。
大舘: そうですね、前作は戦闘にしかボイスが入ってなかったのですが、これも立ち上げのコンセプトがコンパクトテイルズということもあって、そのあり方を模索する中で最初から削ぎ落とされていました。
前回はコンパクトにする為に何を落とすかという議論をしていたのに対して、今回は逆に全てを実現するために試行錯誤をしていて、ここが大きく違う部分です。やはり色々なものを全て収めるのは大変で、どこの容量を減らすか? モーションの容量を減らすか、音声データの容量を減らすか、ムービーデータの容量を減らすか、という話になりました。一番目に付きやすいのが音声で、音声データの容量を減らすにはどうしたらいいかという話になって、そこでCRIさんの「救声主」の話を聞いて、試してみようということになりました。ただ、既に音声を出すシステムは組み上がっていたので抵抗はもちろんありました。その辺りのエピソードは櫻井のほうに・・・(笑)。
櫻井: はい(笑)。2006年の12月くらいに「救声主」の話を聞かされたのですが、既に深澤の方で試作は終えて、本制作にも入る段階で基本的なシステムは構築できていた状態でした。でも、実際に救声主の音声を聞いてみると確かに良くて…。「ちょっといい」くらいだったら断れたのですが、「大分良かった」ので、あぁ、どうしようかな、と(笑)。結局、スケジュールの巻き戻しとクオリティアップを天秤にかけて、最終的に「救声主」でいこうということになりました。完成したものを聞くと、この決断は正解だったと思いますね。
深澤: 自分たちで1からやるよりは、クオリティの高いミドルウェアに乗り換えて良かったですね。
大舘: 2006年11月の段階で試作評価版というのが出来上がって、ボイスと音は『レディアントマイソロジー』のものが鳴っていたと記憶していますが、その段階で容量的に厳しいという感触がありました。その時点だとグラフィックの質を落としたり、色々とやり方はありましたが、作業を一か月くらい巻き戻して「救声主」でやってくれと、半ば泣き落しのような感じで、深澤さんに『アイドルマスター』のグッズを送るような寝技(?)を使いながら交渉した覚えがあります(笑)。
深澤: (アイドルマスターの)CDをいただきましたね(笑)。
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